【T型フォード】が起こした工業製品量産化のイノベーション
イノベーションの代名詞、T型フォード
ビジネスマンであれば、アメリカ経済史に燦然と輝いて記されているT型フォードを知らない人はいないでしょう。1908年、量産化に成功して発売されたT型フォードは、アメリカを飛び出し世界の市場を席巻しました。
しかし、このT型フォード、一体どこにアイディアがあったのでしょうか?今までと違う量産化の方法とは?弱点は無かったのでしょうか?今日はこのテーマに絞ってT型フォードを掘り下げてみたいと思います。
T型フォードの成功要因
T型フォードの量産化に成功した要因は色々あるそうですが、一般的に言われているのは以下の3つです。
1、移動式組み立てラインの導入
それまでは車の周りを労働者が動いて作業していましたが、T型フォード以降は労働者の間を車が動いていくという逆転の発想を取り入れました。
移動組み立てラインが導入される以前は、静止している自動車の回りを労働者が動いて組み立てていく方式がとられていました。しかし労働者が静止したままで未完成の自動車がライン上を動くことによって時間が節約されると考えたのです。D・ハルバースタムの「覇者の驕り」によると、以前は1台の生産に13時間かかっていましたが、巻揚機でシャーシを引っ張るようにして組み立てライン上を動かしていくことによって5時間50分に短縮され、さらに自動ベルトコンベヤを導入すると1台を1時間半で組み立てることができるようになりました。
(参照)INITIA Consulting|INITIA Archives|経営学講座|3. 企業システム:第3章「生産システム」
また、この流れ作業の導入により、熟練工が必要なくなりましたので、労働者の教育機関が飛躍的に短くなりました。誰でもすぐに製造ラインに立つことができるのです。
複雑な作業工程も、要素毎に分解すればほとんどが単純作業の集積であり、個々の単純作業は非熟練労働者を充てても差し支えなかった。作業工程はベルトコンベアによって結合され、熟練工による組立よりもはるかに速く低コストで、均質な大量生産が可能になった。
ただ、このライン式工程に関しては、多くの書籍で「フォードが食肉工場の見学中、ベルトコンベアー式の生産ラインを閃いた」という下りが存在していますが、実際は不明なのようです。
フォードが本格的な流れ作業方式を導入したきっかけについては、「シカゴの食肉処理工場(缶詰工場という異説もあり)での実例を見たヘンリー・フォードの発案」という俗説があるが、実際にはそのように単純なものではなく、フランダースやソレンセンらによる数年間に渡っての試行錯誤の結果、ハイランドパークへの生産移行後に満を持して徐々に導入を始めたのが実情のようである
つまり、アイディアは現場から出たという事ですね。
2、「部品の標準化」するアイディアを導入した。
また、現代ではコスト・ダウンの常識でもある部品の標準化も、フォード社の発案でした。一度に沢山の同じ部品を造り、使う事によって、コスト・ダウンと作業の効率化を同時に図ることができました。
車種を限定することで様々な部品を作る必要性はなくなり、部品を標準化することで、一度に大量の部品が作れ、部品のコスト削減につながった。生産現場の労働者の学習によって歩留まりが高くなるほど生産効果も上昇し、さらにコストダウンが可能となる。また、工程が標準化されることによって、生産業務に精通していない非熟練工もすぐに働くことができるようになる。
3、日給5ドル宣言による労働者の確保
一般的に肯定的に受け入れられている日給5ドル宣言ですが、実は3つの大きな裏がありました。1つ目は給料を上げることによって労働者が車を買えるようにする。2つ目は退屈な仕事に対しての労働者の犠牲。3つ目は労働者の取り換えができるようにすることです。
しかし日給5ドルを得るためには条件が課せられていた。年間を通じて欠勤せずまじめに働くことである。ベルコンベアーシステムのラインの自動車工が一人でも欠勤するとラインが止まる。5ドルの日給で欠勤者をなくしたフォードは、労働者が家に帰って飲酒したり、不摂生な生活を行うことも排除しようと、監視網のシステムも編み出した。労働者に対するモラルの強制は成果を上げるがやがて破綻する。
どうやら良い事ばかりでは無かったようですね。
フォードが残したもの
もしかしたら最低賃金を上げる代わりに辛い労働を強いている、現在のブラック企業のアイディアはこのT型フォードからきているのかもしれません。残念ながらT型フォードをどんなに調べても労働者が幸せになるアイディアは聞かれませんでした。
イノベーションが起きた歴史的瞬間というのは、後世の人間が考えるほど良い時代では無かったのかもしれません。
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